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名古屋地方裁判所 昭和60年(ワ)2230号 判決

一 請求原因1、2項の事実(原告らの特許権及びその専用実施権)及び本件発明が同4項(二)記載の作用効果を有することはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない本件発明の「特許請求の範囲」の記載に、成立に争いのない甲第一号証(本件発明の特許公報)を総合すれば、本件発明の目的は請求原因3項のとおりであること、本件発明の構成要件は同4項(一)のとおり分説し得ることがそれぞれ肯認できる。

二 また、請求原因5、6項の事実(被告ヤマトマシンがイ号物件を業として製造販売していること並びにイ号物件の使用目的、その構成及び作用)及び同7項(一)、(二)の事実(被告方法の目的及び作用効果が本件発明と同一であること並びに被告方法が本件発明の構成要件の(3)(4)(5)を充足すること)も当事者間で争いがない。

三 そこで、被告方法が、本件発明の構成要件(1)及び(2)を充足しているか否かについて以下検討する。

(一) 本件発明の特許請求の範囲に記載された構成要件(1)及び(2)である「切断機構のカツターが移動して棒材を切断すると共に切断された切断素材の外周中央部を保持して後、この保持した切断素材を受渡し機構の挟持部に突入して該挟持部に切断素材の両端を挟持させ」について、原告らは、切断機構のカツターが、棒材の切断と切断素材の保持及び送出しの三作用を併せて機能できることを意味する旨主張しており、この主張は、右構成要件の文理並びに本件発明の明細書及び図面(前掲甲第一号証)から判断して、正当であると認められる。すなわち、右構成要件において、「切断する」、「保持」する、「挟持」する、と記載された各作用(機能)をなす構成部材(主体)が、「切断機構のカツター」であることはその文理上明らかであり、また、明細書及び図面に開示された唯一の実施例においても、「切断する」、「保持する」及び「挟持する」主体はカツターであるほか、カツター以外の切断機構が「保持する」及び「挟持する」主体となり得ること並びに右のことを示唆する記載は、明細書及び図面のどこにも存在しないからである。

(二) ところで、原告らは、被告方法においても棒材の切断をするカツター部分と、切断された棒材(切断素材)を保持して受渡し機構に送り出すホルダー部分とが有機的に結合された「ナイフカツターシヤー」なるものが本件発明のカツターに該当し、結局被告方法は右構成要件(1)(2)を充足する旨主張し、右カツター部分とホルダー部分とが有機的に結合されているといい得る根拠として、右両者がいずれも一本のカム軸に固着されて緊密に連動すること等を挙げている(請求原因7(三))ほか、証人児玉斉夫も、右原告らの主張に沿う証言をしている。

なるほど、前記争いのないイ号物件の構成及び作用に検証の結果を総合すると、イ号物件におけるカツター45とホルダー50は、切削機構7内の切削ボツクス41内部に互いに近接して位置し、かつ、いずれも単一のカム軸31の回転に伴つて連動するように設計されてはいるものの、右切削ボツクス41内部には、右カツター45及びホルダー50と同様、カム軸31の回転に伴つて駆動することにより切断素材Wを挟持してチヤツク部へ移動させるプツシヤーアーム55並びに切断素材W´を把持する可動チヤツク65及びワークホルダー66等も設置されており、さらには、コイル材Wを切削機構内部へ定寸送りする送りローラー17、22及び切断素材W´の切削加工を行う円盤状バイト78を切断素材に圧接させるべく移動する組立スピンドル72もまた、右カム軸31の回転に伴つて駆動するように設計されていることがそれぞれ認められる。しかし、だからといつて本件発明における受渡し機構(本件特許公報の図面の番号3)に当たるプツシヤーアーム55、同じくチヤツキング機構(同4)に当たる可動チヤツク65及びワークホルダー66、棒材の送り機構(同1)に該当する送りローラー17、22並びに端面切削機構(同5)に当たる組立スピンドル72が、右カツター45及びホルダー50とともに互いに有機的に結合され、機構及び部材として一体であるとはいいがたい(原告らの主張も、これらが独立した機構、部材であることを否定するものではない。)以上、右カツター45及びホルダー50が、カム軸31に固着され、その回転に連動することをもつて、直ちにこれらが互いに有機的に結合され、その独立性が否定されるものとする原告らの主張は、採用することができない(ちなみに、本件特許の明細書及び図面で唯一開示された実施例においても、送り機構、切断機構、受渡し機構、チヤツキング機構及び端面切削機構の全部ないし一部は、同図面の番号6のカム軸に固着され、その回転に連動していることが認められる。)。

そして、本件発明の構成要件(1)(2)は、前記のとおり、切断機構のカツターが、棒材の切断と切断素材の保持及び送出しの三作用を併せて機能できることを意味するものと解されるところ、被告方法は、前記争いのないイ号物件の構成及び作用並びに検証の結果によれば、カツター45が、その貫通孔45a内に挿嵌されたコイル材W(棒材)を切断するものの、切断された切断素材W´は、送りローラー機構3の駆動に伴つてシヤーダイス46の貫通孔46a側から定守送りされるコイル材Wがカツター45の貫通孔45a内に挿嵌されるに従つて、隣接されたホルダー50の保持部50a内に挿入されることにより右ホルダー50によつて保持され、さらに、右切断素材W´は、ホルダー駆動用カム35の回転に伴つて移動するホルダー50によつて左右一対のプツシヤーアーム55間に圧入され、その軸両端面がプツシヤーアーム55により挟持されるものと認められ、右本件発明の構成要件にいうところの切断素材の保持及び送出しの機能は、被告方法においては、切断機構とは関係がなく、むしろ受渡し機構の一部ともいうべきホルダー50によつて行われているものと認められる。

もつとも、被告方法においても、前記認定のとおり、カツター45がその貫通孔45a内に挿嵌されたコイル材Wを切断した後、切断素材を一時保持しているのであつて、その限りにおいてはカツター45は切断素材の保持機能を有しているといい得る余地が存する。しかし、前記争いのないイ号物件の構成及び作用並びに検証の結果によれば、右の保持機能は、本件発明におけるような切断素材を受渡し機構の挟持部に突入して該挟持部に切断素材の両端を挟持させるための保持ではなく、単に切断機能を良好にするための保持機能であると解され、また、右切断素材の保持位置も、イ号方法においてはシヤーダイス46側の外周端から、外周中央部にわたつて保持していると認められるところ、本件発明の構成要件にいう「外周中央部」(この構成要件の記載は、いずれも成立に争いのない乙第二ないし第四号証によれば、原告水野が、本件特許出願の当初においては単に「外周部分」と主張していたのを、本件特許出願の審判過程における手続の補正によつて、同原告が意識的に「外周中央部」と限定したことが認められる。)とは異なつていて、結局被告方法におけるカツター45の切断素材の保持機能は、本件発明の構成要件にいうところの保持機能とは異なるものといい得る。

(三) そうすると、被告方法においても、カツター及びホルダーの結合した「ナイフカツターシヤー」が本件発明の構成要件における「カツター」に該当し、右「ナイフカツターシヤー」が棒材の切断と切断素材の保持及び送出しの三作用を併せて機能している旨の原告らの主張は、切断素材の保持及び送出しの各作用を行つているだけで、なんら切断機能を有していないイ号物件のホルダーを、「切断機構のカツター」と同視すべきものであるとの主張に帰するのであつて、到底採用の限りではなく、結局被告方法は、本件発明の構成要件(1)(2)を充足しないものと解される。

四 次に、原告らは、仮に被告方法が本件発明の構成要件(1)(2)を充足していないとしても、被告方法は、本件発明の切断機構の構造を分離して二つの機構とした上、切断素材をカツターの部分から保持機構へ移動させる作用を付加したに過ぎないから、本件発明との均一性、同一性がある旨の主張(これは、均等論を主張する趣旨と解される。)をしているので、この点につき、以下さらに検討する。

(一) 一般に、ある特許発明の構成要件の一部を他の要素に置換した技術が、右特許発明と均等とされるためには、(イ)その技術がその目的及び作用効果において右特許発明と同一であるため、その技術を特許発明と置換することが可能であり(置換可能性)、(ロ)かつ、右特許発明の構成の記載から、そのように置換することが出願時における当業者において当然に想到しうる程度のものであること(置換自明性)が必要であると解される。

(二) そこで、本件発明において棒材の切断と切断素材の保持及び送出し作用を有する「カツター」を、切断作用を有する「カツター」と切断素材の保持及び送出し作用を有する「ホルダー」とに置き換えた被告方法が、本件発明と均等と解し得るかについて、右各要件ごとに考察する。

(1) 置換可能性について

被告方法の目的及び作用効果が本件発明のそれらと同一であることは当事者間に争いがないので、被告方法は、本件発明と置換可能性を有するものであるといい得る。

(2) 置換自明性について

前記認定のとおり、本件発明は、切断機構のカツターが、棒材の切断並びに切断素材の保持及び送出しの機能を併せ有する点にその特徴の一つが存するところ、本件発明の出願において、本件発明の右構成から、当業者が被告方法におけるようなカツターとホルダーとを並設し、カツターが棒材を切断すると共に、右切断された切断素材をホルダーで保持して切削機構に送り出す構成が当然に想到し得たとの認定には、右の当時、カツターとホルダーを並設して棒材の定寸切断をすること及び定寸切断された棒材をホルダーで保持すると共に他の装置部分に右棒材を受け渡すことが、既に公知の技術手段であつたことの立証が必要であると解される。

ところで、前記争いのないイ号物件の構成及び作用並びに検証の結果によれば、イ号物件は、(イ)カツター45が、シヤーダイス46のダイス面と可及的に近接して設置されていること、(ロ)可動刃であるカツター45も、固定刃であるシヤーダイス46もともに丸刃となつて、カツター45の貫通孔45a内に挿嵌されたコイル材W(棒材)は、カツター45の移動方向に対しては、係脱不可能の状態で切断されること、がそれぞれ認められる。

右のイ号物件の構造によれば、被告方法は、本件発明の目的とする点には関わりがないものの、本件発明に比較すると、その明細書及び図面にはなんら記載ないしは示唆のない次のような作用効果(利点)、すなわち、

(イ) 本件発明の構成要件によれば、本件発明では、カツターが切断素材の外周中央部を保持して受渡し機構の挟持部に右切断素材の両端を保持させる必要があるため、カツターとシヤーダイスとの間隔が若干なりとも必要と解されるのに対し、被告方法においては、前記認定のとおり、カツターとシヤーダイスのダイス面とが可及的に近接して設置され、

(ロ) 本件発明の構成要件によれば、本件発明では、カツターが保持する切断素材をその移動方向に存する受渡し機構の挟持部に送出す必要があるため、カツター(可動刃)のせん断型は、その移動方向については支えのない半丸型にならざるを得ないのに対し、被告方法においては、前記認定のとおり、固定刃であるシヤーダイスばかりでなく可動刃であるカツターも共に丸刃となつているため、カツターの貫通孔内に挿嵌されたコイル材(棒材)は、カツターの移動方向に対しては係脱不可能の状態で切断されるので、棒材の定寸切断時に切り口のダレルことが相対的に少なく、かつ、棒材の軸線方向に対してより直角に切断されること、また、せん断時における棒材の保持状態が安定し、その結果切断機能が質的に向上するため、棒材の切削工程におけるバイトによる切削効率等も向上するというコイル自動盤としての格別の作用効果を有することが認められる。

そして、右のように、被告方法に本件発明に対してより有利な作用効果が存することは、本件発明の出願時においては、被告方法が当業者にとつて容易に推考することができなかつたことを示す一証左であると解される。なぜなら、もし、被告方法が出願当時、当業者(本件特許の出願者である原告水野が右当業者に該当することは当然である。)にとつて当然に想到し得たものであつたならば、本件発明の構成よりも、より切断機能が良く、かつ、切削効率等も向上する被告方法が、本件明細書又は図面になんらかの形で開示されていてしかるべきであると解されるからである。また、この点について、他に被告方法の構成が本件発明の出願当時公知の技術手段であつたことを認め得るなんらの証拠も存しない。

(三) そうすると、被告方法は、本件発明に対し、その目的とする課題についての作用効果においては同一であつて置換可能性は認められるものの、置換自明性が認められないので、結局、被告方法が本件特許と均等な技術である旨の原告らの主張は採用することができない。

五 以上の次第であつて、被告方法は、本件発明の技術的範囲に属さないことが明らかであるから、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないのでこれを棄却する。

〔編註〕 本件発明の構成要件は左のとおりである。

(1) 切断機構のカツターが移動して棒材を切断すると共に切断された切断素材の外周中央部を保持し(第一工程)

(2) その後、この保持した切断素材を受渡し機構の挟持部に突入して該挟持部に切断素材の両端を挟持させ、(第二工程)

(3) 次いで、前記挟持部が切断素材の挟持状態でチヤツキング機構のチヤツク爪の開口部に移動し、(第三工程)

(4) その後、前記チヤツク爪が切断素材の外周中央部を把持し、(第四工程)

(5) 次いで、前記受渡し機構の挟持部が前記切断素材から滑脱してから端面切削機構の回転するバイトにより前記切断素材の端面を切削加工する、(第五工程)

ことを特徴とする棒状製品の加工方法。

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